3種類の基本的な労働時間制度の比較

 

 

固定時間制度

フレックスタイム制度

裁量労働制度

「遅刻、早退、労働時間の不足」の概念

「遅刻」とは、就業規則で決められた始業時間に遅れること。

「早退」とは、就業規則で決められた就業時間より早く退社すること。

「労働時間の不足」とは、1日の労働時間が就業規則で決められた1日の所定労働時間に満たないこと。

 

 

「遅刻」とは就業規則で決められたコアタイム開始時間に遅れること。

「早退」とは就業規則で決められたコアタイム終了時間より早く退社すること。

「労働時間の不足」とは、その月の労働時間が、就業規則で決められた月間所定労働時間を下回ること。

 

 

「遅刻」「早退」「労働時間の不足」という概念そのものがない。出社してさえいれば、みなし労働時間(労使協定で定められる)分働いたと見なされる、

「いつ出社しても、いつ退社してもよい」と解する人もいるが、それは正しくない。「出社時間、退社時間は、業務を遂行する上での効率性や合理性で決められる」が正しい。

「遅刻、早退、労働時間の不足」のペナルティ

1日単位に清算する。

「遅刻、早退が発生したから控除する」というよりも、「1日の所定労働時間に満たないから控除する」の方が正確。

但し、1日の所定労働時間を満たしていても、遅刻、早退自体にペナルティを課す会社もある。

 

遅刻、早退に対するペナルティは各社の就業規則や労使協定による。通常は、遅刻・早退の届出があり、且つ、清算期間(1か月)の総労働時間が満たされていれば、直接的に控除されることはない。(賞与や昇給でマイナスとなる可能性はある。)

 

その月の労働時間が、月間所定労働時間を下回った場合は減額される。

遅刻、早退がなくても減額が発生することに注意。

会社側から標準的な出社時間・退社時間を明示することはできるが、それを守らなくても直接的にペナルティを課すことはできない。

しかし、それが原因で業務が非効率になるなら、賞与や昇給でマイナスとなる可能性はある。

時間外労働

就業規則で決められた1日の所定労働時間以上に働くこと。

但し、「働いた時間=会社にいた時間」ではない。時間外労働として認められるためには、1日単位の申請・承認、または指示が必要。

その月の月間所定労働時間より多く働くこと。

したがって、フレックスタイム制を導入した場合、日々の残業申請は意味がなくない。

 

時間外労働という概念はない。

時間外労働手当

1時間あたりの算定基礎額×時間外勤務時間×0.25

時間外労働手当という概念はない。

深夜労働

午後10時より午前5時までの深夜に勤務に服した場合には深夜勤務手当を支給する。尚、管理監督職は、時間外労働、休日労働の適用除外者だが、深夜労働は適用される。

深夜労働手当

1時間あたりの算定基礎額×時間外勤務時間×0.25

休日出勤

休日には「所定休日」と「法定休日」がある。労働基準法では「法定休日は週に1日」と決められているだけで、「所定休日」と「法定休日」の定義は各社の就業規則、労使協定に依存している。

休日出勤手当

【所定休日】

当該週の総労働時間が40時間を超えた場合は、「1時間あたりの算定基礎額×40時間を超えた時間×0.25

40時間を超えない部分は割増手当なし。

【法定休日】

1時間あたりの算定基礎額×休日勤務時間×1.35

各社の就業規則、労使協定に依存するが、「所定休日は0.25、法定休日は0.35」または「所定休日、法定休日ともに0.35」が一般的。

法的制約

なし。

労使協定が必要。

労使協定が必要。

適応できる職種に制約がある。

適している仕事

l         1日単位に進捗管理ができる仕事。(その日のうちに終わらせなければならない仕事が明確な仕事。)

l         労働時間と成果が比例する仕事。

l         出社時間厳守、退社時間厳守に重要な意味がある仕事。

l         社員が一緒の時間に働くことに重要な意味がある仕事。

l         例:事務職、工場の工員

l         進捗管理の単位が、日でなく週や月の仕事。つまり、日単位で残業の指示・承認をしにくい仕事。

l         ある日に多く働き、ある日に少なく働くという調整が可能な仕事。

l         個人のペースに任せた方が、生産性が上がる仕事。

l         例:プログラマ

l         労働時間と成果が比例しない仕事。

l         勉強、調査、業務の境目があいまいな仕事。

l         個人の創造性が重要な仕事。

l         例:デザイナー、コンサルタント、研修開発職、システムエンジニア

長所

l         日々の残業申請が必要なので、時間外労働をコントロールしやすい。(フレックスタイム制との比較)

l         日々の遅刻、早退だけを気にしていれば、賃金カットがない。(フレックスタイム制との比較)

l         自分のタイプ(朝型、夜型など)に合わせて、勤務時間をシフトできる。

l         ラッシュアワーを避けられる。

l         体調不良、家庭の用事などで1日の労働時間が減っても、別の日に取り戻すことが容易。

 

l         会社側としては、時間外労働の管理コストを減らせる。

l         従業員側としては、時間による賃金カットがないので、時間を気にせずに仕事ができる。

裁量労働制の「成果」よりも「時間」の方が分かりやすい。

 

欠点

@       体調不良、家庭の用事などで、遅刻、早退が発生することはあり得る。それによって、1日の労働時間が減ると、給与が控除される。しかも、日々の残業申請・承認が必要なので、控除された分他の日に多めに働くということは難しい。

A       生産性の高い人も低い人も、給料面で差が出にくい。(生産性の高い人にとっては不満。)

B       ソフトウェア開発業務の場合、日々の残業申請は機能しない。その結果、時間外労働時間が増える場合が多い。

@       時間外労働の管理が難しい。理屈から言うと月単位に残業申請があるべきだが、「月単位の残業申請」など現実的には無理。計画的ではなく結果的に時間外労働時間が決まる。

A       上記の結果として、成果のわりに時間外労働が多くなりすぎた場合は、会社は赤字となる。

B       従業員の側も月の稼働時間を常に意識していないと、月の最後に時間が足りなくなる。控除されないために無意味に会社にいたりする。

C       日々の残業申請がないので、「働いた時間=会社にいた時間」になりやすく、生活残業が発生しやすい。

D       生産性の低い人ほど労働時間が増え、給料が高くなる場合がある。

E       出社時間、退社時間ともに遅くなる傾向がある。

@       みなし労働時間と実働時間との乖離が大きくなりやすい。

A       実動時間が極端に大きくなっても時間外労働手当がつかないので、従業員側に不満が出る。

B       逆に、成果や実動時間が少なくても控除ができないため、会社側に不満で出る。

C       「時間ではなく成果によって評価する」が建前だが、その「評価」について従業員側から不満が出やすい。

D       「休出手当も深夜手当も出ない制度」などと誤解されやすい。

欠点の修正措置

l         欠点@に対して:半日有給制度。時間単位の有給制度(現時点では法的には認められていない)

l         欠点Bに対して:固定的時間外労働手当

l         欠点@に対して:固定的時間外労働手当

l         欠点Bに対して:不足した場合の翌月繰り越し

l         欠点Aに対して:裁量労働制といえども、時間と成果はある程度は比例するのであり、時間外労働相当の歩合を出すことはあり得る。

l         欠点Cに対して:評価の根拠を十分に説明する